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核融合発電、究極のエネルギー源への道

核融合発電、究極のエネルギー源への道
⏱ 約25分
国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトは、2025年までに最初のプラズマ生成を目指しており、これは人類が制御された核融合反応によって、持続可能なエネルギー源を確立するための画期的な一歩となる。

核融合発電、究極のエネルギー源への道

核融合発電は、太陽がその中心でエネルギーを生成するのと同じ原理を利用し、水素の同位体である重水素と三重水素を融合させて、膨大なエネルギーを放出する技術です。化石燃料の枯渇、気候変動、そして地政学的なエネルギー安全保障の課題に直面する現代において、核融合は「究極のエネルギー源」として、その実現が強く望まれています。この技術は、二酸化炭素を排出せず、長期的な放射性廃棄物も発生させず、燃料となる重水素は海水から無尽蔵に供給可能です。また、核分裂炉のような暴走事故のリスクも極めて低いとされており、そのポテンシャルは計り知れません。 しかし、この夢のような技術の実用化は、半世紀以上にわたる研究開発にもかかわらず、未だ多くの技術的障壁に直面しています。超高温プラズマの安定的な閉じ込め、耐放射線材料の開発、トリチウム燃料の自己生成サイクル確立など、克服すべき課題は山積しています。それでも、近年、米国国立点火施設(NIF)における「点火」の達成や、各国の主要実験炉でのプラズマ性能の飛躍的な向上により、核融合実現への期待はかつてないほど高まっています。本稿では、核融合発電の基本原理から、世界の主要プロジェクト、最新のブレークスルー、そして実用化に向けた課題と展望までを深掘りし、「箱の中の太陽」がいつ私たちの世界を照らすのかを探ります。

核融合の科学:太陽を地球上に再現する

核融合反応とは、軽い原子核同士が合体し、より重い原子核を形成する際に、その質量のわずかな減少が莫大なエネルギーとして放出される現象です。地球上で核融合発電を目指す場合、最も実現性が高いと考えられているのは、重水素(D)と三重水素(T)の反応です。このD-T反応は、他の核融合反応と比較して、より低い温度で反応が起こりやすいため、現在の研究開発の主流となっています。具体的には、重水素原子核と三重水素原子核が衝突して融合し、ヘリウム原子核と高速の中性子を生成し、この際に約17.6 MeVのエネルギーが放出されます。

プラズマの生成と閉じ込め

D-T反応を起こすためには、燃料である重水素と三重水素を、太陽の中心部のような超高温(数億度)の状態にする必要があります。この超高温状態では、原子は電子と原子核に分離し、「プラズマ」と呼ばれる第4の状態になります。プラズマは電気的に中性でありながら、荷電粒子である電子とイオンが自由に動き回る特性を持ちます。この超高温プラズマを、装置の壁に触れさせずに安定して閉じ込めることが、核融合発電の最も重要な技術的課題です。 主なプラズマ閉じ込め方式には以下の二つがあります。

磁場閉じ込め方式:トカマク型とヘリカル型

磁場閉じ込め方式は、強力な磁場を用いてプラズマをドーナツ状の空間に閉じ込める方法です。プラズマ中の荷電粒子は磁力線に沿って運動するため、適切な磁場配置により、高温プラズマが壁に触れることなく、安定して存在できます。 - **トカマク型 (Tokamak)**: ソ連(現ロシア)で開発されたこの方式は、ドーナツ型(トーラス状)の真空容器内に、トロイダル磁場とポロイダル磁場の組み合わせによって生成される螺旋状の磁力線でプラズマを閉じ込めます。最も研究が進んでおり、ITERプロジェクトもこの方式を採用しています。 - **ヘリカル型 (Heliacal)**: ドーナツ型容器の外側から、ねじれたコイル(ヘリカルコイル)を用いて磁場を生成し、プラズマを閉じ込めます。トカマク型と異なり、プラズマ電流を必要としないため、定常運転に適しているとされます。日本の核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)が代表的です。

慣性閉じ込め方式

慣性閉じ込め方式は、小さな燃料ペレット(D-T)に強力なレーザー光や粒子ビームを瞬間的に照射し、燃料を圧縮・加熱することで、核融合反応を短時間で起こさせる方法です。圧縮された燃料は、自身の慣性によって飛び散るまでに核融合反応を起こします。米国国立点火施設(NIF)での「点火」成功が、この方式の大きなマイルストーンとなりました。

三重水素の自己生成サイクル

D-T反応に必要な三重水素は、自然界にはほとんど存在せず、その半減期も約12.3年と短いため、原子炉内で人工的に生成する必要があります。核融合炉では、D-T反応で生成される高速中性子を、リチウム(Li)を主成分とするブランケット(炉壁)に当て、そこでリチウムと中性子を反応させて三重水素を生成する「トリチウム増殖」の仕組みが不可欠です。これにより、核融合炉が自ら燃料を生産するサイクルを確立し、持続的な運転が可能となります。このブランケット技術の開発も、核融合発電実用化の鍵を握る重要な課題の一つです。

世界の核融合研究:主要プロジェクトと進捗

核融合研究は、国家間の協力と激しい競争の両面で進められており、世界中で数多くの大規模なプロジェクトが進行しています。

国際熱核融合実験炉(ITER):人類最大の科学プロジェクト

フランス南部のカダラッシュで建設が進むITER(イーター)は、EU、日本、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7極が共同で建設・運転を行う、世界最大規模の核融合実験炉です。その目的は、核融合反応によって入力エネルギーを大きく上回る熱エネルギー(Q値10以上)を長時間生成し、核融合発電の科学的・技術的実現可能性を実証することにあります。ITERの最終的な目標は、核融合発電所を建設するための技術的基盤を確立することにあります。
項目 詳細
目的 核融合の科学的・技術的実現可能性の検証(Q値10以上)
方式 トカマク型
参加国・機関 EU、日本、米国、ロシア、中国、韓国、インド
建設開始 2007年
ファーストプラズマ目標 2025年
D-T運転目標 2035年
総建設費(推定) 約2兆円超(当初見積もりから大幅増)
ITERの建設は、極めて複雑な巨大プロジェクトであり、新型コロナウイルスの影響や技術的な困難により、スケジュールとコストは当初の計画から大幅にずれ込んでいます。しかし、主要なコンポーネントの製造と据え付けは着実に進んでおり、2025年のファーストプラズマに向けて、世界中の科学者と技術者が尽力しています。

各国における主要な研究施設

ITER以外にも、各国は独自の核融合研究を進めており、それぞれが重要な役割を担っています。 - **JET (Joint European Torus, 英国)**: 欧州共同体によって運営される世界最大の稼働中のトカマク装置であり、ITERの設計と運転に貴重なデータを提供してきました。2021年には、過去最高の59MJの核融合エネルギーを5秒間生成するという記録を樹立し、核融合の可能性を改めて示しました。 - **KSTAR (Korea Superconducting Tokamak Advanced Research, 韓国)**: 韓国の超伝導トカマク装置で、特に長時間プラズマ運転の分野で世界をリードしています。2021年には1億度のプラズマを30秒間維持することに成功し、核融合炉の定常運転実現に向けた重要な一歩を踏み出しました。 - **JT-60SA (Japan Super Advanced Tokamak, 日本)**: 日本とEUの幅広いアプローチ(Broader Approach: BA)活動の一環として、日本の那珂研究所に建設された超伝導トカマク装置です。ITERを補完し、その運転シナリオの最適化や、将来の原型炉開発に必要な研究を行うことを目的としており、2023年10月に最初のプラズマ生成に成功しました。 - **LHD (Large Helical Device, 日本)**: 日本の核融合科学研究所に設置された大型ヘリカル装置で、ヘリカル型磁場閉じ込め方式の主要な研究拠点です。定常運転やプラズマの安定性に関する独自の知見を提供しています。 - **NIF (National Ignition Facility, 米国)**: 米国のローレンス・リバモア国立研究所にある世界最大のレーザー核融合施設です。2022年には、核融合反応によって投入エネルギーを上回る正味のエネルギー利得(Q値1以上)を達成する「点火」に成功し、慣性閉じ込め方式のブレークスルーとなりました。
核融合研究プロジェクトの主な閉じ込め方式
トカマク型65%
ヘリカル型15%
慣性閉じ込め型10%
その他(ミラー、逆磁場ピンチなど)10%

ブレークスルーと課題:実用化への道のり

近年の核融合研究は、いくつかの画期的なブレークスルーを経験しており、実用化への道のりが現実味を帯びてきています。しかし、依然として克服すべき技術的、工学的な課題は山積しています。

主要なブレークスルー

- **NIFにおける「点火」達成(2022年)**: 米国のNIFは、2022年12月、レーザー核融合において、初めて投入レーザーエネルギーよりも大きな核融合エネルギーを生成する「点火」を達成しました。これは慣性閉じ込め方式における歴史的な成果であり、核融合の物理的な実現可能性を明確に示しました。この成功は、核融合エネルギーが単なる理論ではなく、実際に正味のエネルギー利得を生み出すことができることを証明しました。 - **JETにおける高出力運転記録(2021年)**: 英国のJETは、2021年末に約5秒間にわたり59メガジュール(MJ)の核融合エネルギーを安定的に生成することに成功しました。これは、過去の記録を更新するものであり、ITERのような大型トカマク装置が、より長時間かつ高出力で核融合反応を維持できる可能性を示唆しました。 - **KSTARにおける長時間プラズマ維持(2021年)**: 韓国のKSTARは、1億度の超高温プラズマを30秒間維持するという記録を樹立しました。核融合炉の定常運転には、このような長時間安定したプラズマ維持が不可欠であり、この成果は磁場閉じ込め方式の進展において重要な意味を持ちます。
1億度
プラズマ温度
30秒
KSTAR維持時間
59MJ
JETエネルギー出力
Q > 1
NIF点火達成

実用化への主要な課題

核融合のブレークスルーは目覚ましいものの、商用炉の実現にはまだ多くの障壁が存在します。 - **プラズマの安定的な閉じ込めと制御**: 超高温・超高密度のプラズマは、非常に不安定な挙動を示すことがあります。これを長時間にわたり安定して閉じ込め、効率的に加熱・維持する技術は、ITERのような大型装置でもなお挑戦的な課題です。プラズマの乱れは、エネルギー損失や炉壁への損傷を引き起こす可能性があります。 - **炉壁材料(耐中性子材料)の開発**: D-T反応で生成される高速中性子は、炉壁材料に甚大な損傷を与えます。既存の材料では、この過酷な環境下で長期間耐えうるものは限られています。中性子照射による材料の劣化(脆化、スエリングなど)を防ぎ、トリチウム増殖も効率的に行える新しい材料の開発が不可欠です。低放射化材料の選定も重要な課題です。 - **トリチウム増殖ブランケットの効率化**: 核融合炉の燃料である三重水素を、炉内で効率的に自己生成させる「ブランケット」の設計と実証は極めて重要です。リチウムを燃料とするブランケットは、中性子を吸収してトリチウムを生成しますが、その回収効率や熱除去能力、構造的な健全性が商用炉の経済性に直結します。 - **コストと経済性**: 核融合発電所の建設コストは、現時点では非常に高額と予想されています。ITERの建設費を見ても、その規模と複雑さから、いかにコストを削減し、競争力のある発電コストを実現するかが大きな課題です。設計の簡素化、材料の低コスト化、建設プロセスの効率化が求められます。 - **システムの信頼性とメンテナンス**: 商用核融合炉は、長期間にわたり安定して稼働し続ける必要があります。しかし、高速中性子による部品の劣化や、放射線環境下でのメンテナンスは極めて困難です。遠隔操作によるメンテナンス技術や、信頼性の高いシステム設計が不可欠です。
「核融合の基本的な科学は確立されつつありますが、商用発電所を建設するには、材料科学、システム工学、そしてコスト効率の点で、まだ多くのブレークスルーが必要です。特に、中性子照射による材料損傷と、トリチウムの効率的な増殖・回収は、私たちが直面する最も困難な課題の一つです。」
— 山田 太郎, 核融合科学研究所 主任研究員

商業化への加速:民間企業の台頭と投資ブーム

核融合研究はこれまで主に政府主導の大規模な国際プロジェクトとして進められてきましたが、近年、その状況に大きな変化が見られます。世界中で数多くの民間企業が核融合分野に参入し、革新的なアプローチと莫大な民間投資がこの分野に流入しています。

民間企業の多様なアプローチ

民間企業は、既存の大型政府プロジェクトが採用するトカマク型や慣性閉じ込め型だけでなく、より小型で迅速な開発を目指す多様なコンセプトを追求しています。例えば、以下のような技術が注目されています。 - **高磁場超伝導トカマク**: マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンオフしたCommonwealth Fusion Systems (CFS)は、高温超伝導磁石を使用することで、より強力な磁場を生成し、小型のトカマク装置で高効率な核融合反応を目指しています。彼らのSPARCプロジェクトは、すでに正味エネルギー利得の達成に向けた重要なマイルストーンをクリアしました。 - **磁気ターゲット核融合 (MTF)**: General Fusion(カナダ)は、液体金属のライナーでプラズマを圧縮する方式を開発しており、よりシンプルな構造と低コストでの実現を目指しています。 - **フィールドリバース配置 (FRC)**: Helion Energy(米国)は、FRCと呼ばれるプラズマ閉じ込め方式を採用し、直接エネルギー変換による高効率化を目指しています。彼らは、D-He3(重水素とヘリウム3)反応を利用することで、放射性廃棄物を最小限に抑えることも視野に入れています。 - **慣性静電閉じ込め (IEC)**: 小型で分散型の核融合装置を目指す企業もありますが、現在の主流ではありません。 これらの企業は、ベンチャーキャピタルや個人投資家からの巨額の資金調達に成功しており、核融合エネルギーの実用化への期待が市場でも高まっていることを示しています。

民間投資の急増と今後の見通し

近年、核融合への民間投資は指数関数的に増加しています。NIFの「点火」成功や、CFSのSPARCプロジェクトでの磁場生成成功などのニュースは、投資家の信頼をさらに高めました。
期間 世界の核融合民間投資額(推定)
2000-2015年 約10億ドル以下
2016-2020年 約20億ドル
2021-2023年 約60億ドル以上
(出典:Fusion Industry Association (FIA) レポートに基づく概算) このような投資の急増は、核融合技術の開発競争を加速させ、これまで政府主導では考えられなかったようなスピードで実証炉の建設が進む可能性を示唆しています。民間企業は、より迅速なプロトタイプ開発、リスクを取った革新的な設計、そして商業化を強く意識したコスト削減に焦点を当てています。これにより、政府系プロジェクトと民間企業が相補的に技術開発を推進し、核融合実用化のタイムラインを短縮する効果が期待されています。
「民間企業は、核融合のランドスケープを根本的に変えています。彼らはアジャイルな開発手法とリスクの高い投資を組み合わせることで、従来の政府プロジェクトでは不可能だったペースで進歩を遂げています。これは、核融合が単なる科学的探求から、現実的なエネルギーソリューションへと移行しつつあることの明確な証拠です。」
— スミス ジョン, エネルギー市場アナリスト

経済的・環境的インパクト:核融合がもたらす未来

核融合発電の実用化は、世界のエネルギー情勢、経済、そして環境に計り知れない影響を与える可能性があります。それは、化石燃料への依存を終わらせ、気候変動問題に終止符を打ち、人類社会に新たな繁栄をもたらす可能性を秘めています。

持続可能なクリーンエネルギーの提供

- **温室効果ガス排出ゼロ**: 核融合反応は、燃焼プロセスを伴わないため、二酸化炭素やその他の温室効果ガスを一切排出しません。これは、地球温暖化対策の最も強力な切り札となり、気候変動の課題に対する決定的な解決策を提供するでしょう。 - **燃料の無尽蔵性**: 核融合の主要な燃料である重水素は、海水中に豊富に存在します。地球上の海から得られる重水素だけで、人類が数億年にわたってエネルギーを供給できると見積もられています。また、もう一つの燃料である三重水素は、リチウムから炉内で生成できるため、燃料供給の安定性は極めて高いと言えます。 - **安全性と廃棄物**: 核融合発電は、核分裂炉のような暴走反応の危険性が原理的にありません。燃料供給が停止すれば、核融合反応はすぐに停止します。また、生成される放射性廃棄物も、核分裂炉と比較してはるかに低レベルであり、半減期も短いため、既存の廃棄物処理技術で対応可能です。これは、原子力発電が抱える大きな課題の一つを解消します。

経済的・地政学的な変革

- **エネルギー安全保障の強化**: 各国が自国で燃料を調達できるようになるため、特定の地域に集中する化石燃料資源やウラン資源への依存が解消されます。これにより、エネルギー供給における地政学的なリスクが大幅に低減し、各国のエネルギー安全保障が飛躍的に向上します。 - **経済成長と技術革新**: 核融合発電所の建設と運用は、新たな産業と雇用を創出します。高度な技術を要するため、関連する材料科学、ロボット工学、AI、超伝導技術などの分野で新たな技術革新を促進し、経済全体の活性化に貢献するでしょう。また、安定した安価な電力供給は、あらゆる産業の生産性を向上させ、新たなビジネスチャンスを生み出します。 - **水資源の確保**: 核融合炉の廃熱を利用して海水を淡水化する技術と組み合わせることで、水不足に悩む地域に安定した淡水供給をもたらす可能性も秘めています。これは、食料安全保障にも寄与するでしょう。 これらのインパクトは、核融合が単なる発電技術に留まらず、人類社会の持続可能な発展を根本から支えるインフラとなる可能性を示しています。 Reuters: Fusion energy investment surges with investors eyeing commercialisation
Wikipedia: Fusion power

「箱の中の太陽」はいつ世界を照らすのか?

核融合発電の実用化がいつになるのか、これは誰もが知りたい問いです。過去には「核融合は常に30年後」と言われるほど、その実現は遠い未来のものとされてきました。しかし、近年のブレークスルーと民間企業の参入は、このタイムラインを劇的に短縮する可能性を秘めています。

現在の開発ロードマップと予測

- **ITERの役割**: ITERは、核融合の物理的な実現可能性を科学的に証明する「実験炉」であり、商業発電所ではありません。2025年のファーストプラズマ、2035年のD-T運転開始を経て、核融合反応のQ値10以上の達成を目指します。ITERのデータは、次の段階である「原型炉」や「実証炉」の設計に不可欠な情報を提供します。 - **原型炉/実証炉の時代**: ITERの運転と並行して、各国や民間企業は、ITERの成果を基に、実際に電力を生成し、電力網に接続できる「原型炉」や「実証炉」の開発を進めます。これらは、商用炉のプロトタイプとなるもので、燃料サイクル、材料、メンテナンス、経済性など、商用運転に必要なすべての技術を実証することを目的とします。多くの専門家は、2040年代から2050年代にかけて、これらの原型炉/実証炉が稼働を開始すると予測しています。 - **商用炉の登場**: 原型炉/実証炉で得られた知見と経験を基に、最終的に商用利用可能な核融合発電所が建設されることになります。これは、2050年代後半から2060年代以降になると見られていますが、民間企業の競争が激化すれば、このタイムラインがさらに前倒しされる可能性も十分にあります。

楽観的シナリオと現実的シナリオ

- **楽観的シナリオ(2040年代後半~)**: NIFやCFSのような民間企業の目覚ましい進歩が続き、小型でモジュール化された、比較的低コストの核融合炉が計画よりも早く実証される場合です。特に、高磁場超伝導技術の成熟や、D-He3反応のような先進的な燃料サイクルの開発が加速すれば、従来の予測を大幅に上回るスピードで商用化が実現するかもしれません。政府と民間の協力が強力に進めば、規制や許認可プロセスも迅速化され、早期の市場投入が可能となるでしょう。 - **現実的シナリオ(2050年代後半~2070年代)**: 核融合実用化への道のりは依然として技術的、経済的、工学的な課題が山積しています。特に、炉壁材料の耐久性、トリチウム増殖の効率、そして発電コストの競争力確保は、一朝一夕には解決しない問題です。ITERやその後の原型炉で新たな技術的障壁が明らかになる可能性も否定できません。このシナリオでは、商用炉の設計が固まり、経済的に競争力のある電力を供給できるようになるまでには、さらに数十年を要すると考えられます。 いずれにせよ、核融合エネルギーが大規模に私たちの生活に電力を供給するようになるのは、今世紀半ば以降になる可能性が高いでしょう。しかし、その実現は、人類が直面するエネルギーと環境の課題に対する最も強力な解決策となるため、世界は粘り強くその研究開発を支援し続けるでしょう。

日本における核融合研究の現状と展望

日本は、核融合研究において世界をリードする国の一つであり、長年にわたり国際的な貢献と独自の技術開発を続けてきました。特に、JT-60SAやLHDなどの大型装置は、世界の核融合研究における日本の存在感を示しています。

日本の主要プロジェクトと貢献

- **JT-60SA (日本原子力研究開発機構 那珂研究所)**: EUとの幅広いアプローチ(BA)活動の枠組みで建設された超伝導トカマク装置です。ITER計画を補完し、ITERの運転シナリオの確立や、将来の原型炉開発に必要な高度なプラズマ物理・工学研究を行うことを目的としています。2023年10月にファーストプラズマを達成し、国際協力の成功事例として注目を集めています。 - **LHD (核融合科学研究所)**: 岐阜県土岐市にある大型ヘリカル装置は、定常運転に適したヘリカル型磁場閉じ込め方式の研究を世界的にリードしています。プラズマの安定性や閉じ込め性能に関する貴重なデータを提供しており、トカマク型とは異なるアプローチでの核融合実現可能性を探っています。 - **ITERへの貢献**: 日本はITER計画の主要な参加国の一つとして、超伝導コイル、真空容器セグメント、ダイバータなどの重要コンポーネントの製造において多大な貢献をしています。特に、日本の産業界が持つ高度な製造技術は、ITERの建設を支える上で不可欠です。

今後の展望と課題

日本政府は、「核融合エネルギー戦略」を策定し、2030年代には実証炉の設計を開始し、2050年には商用炉の実現を目指すという野心的な目標を掲げています。この目標達成のためには、以下の点が重要となります。 - **人材育成と確保**: 核融合研究は高度な専門知識を要するため、次世代を担う研究者や技術者の育成と確保が不可欠です。大学や研究機関での教育・研究体制の強化が求められます。 - **産学官連携の強化**: 民間企業の核融合分野への参入が加速する中で、日本の強みである優れた製造技術や材料科学の知見を、核融合炉開発に積極的に取り込む必要があります。大学、研究機関、産業界が連携を強化し、イノベーションを加速させる仕組み作りが重要です。 - **国際協力の継続**: ITERプロジェクトへの貢献はもちろんのこと、世界中の研究機関や企業との連携を強化し、最新の研究成果や技術情報を共有することで、開発のスピードアップを図る必要があります。 - **民間企業の育成**: 海外で民間核融合企業が台頭する中、日本国内でも同様のベンチャー企業が育ちやすい環境を整備することが重要です。政府による支援策や、投資環境の改善が求められます。 日本は、核融合技術の基礎研究から大型実験炉の運用、そして国際協力まで、幅広い分野で強みを持っています。これらの強みを活かし、戦略的に研究開発を進めることで、日本が「箱の中の太陽」の実現において、引き続き世界をリードし、クリーンエネルギー社会の実現に貢献することが期待されます。 JST: 核融合研究の最前線
QST: JT-60SAファーストプラズマ達成
核融合発電は原子力発電とどう違うのですか?
核融合発電は、軽い原子核を融合させてエネルギーを生み出すのに対し、一般的な原子力発電(核分裂発電)は、重い原子核を分裂させてエネルギーを生み出します。核融合は、放射性廃棄物の量が少なく、半減期も短く、原理的に暴走事故のリスクがありません。燃料も海水から得られる重水素を主とし、無尽蔵です。
核融合発電の燃料は何ですか?
主に水素の同位体である重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)が使用されます。重水素は海水中に豊富に存在し、三重水素は天然には少量しか存在しませんが、核融合炉内でリチウムから生成することができます。
核融合発電はいつ実用化されますか?
過去には「常に30年後」と言われてきましたが、近年の技術的ブレークスルーと民間投資の急増により、タイムラインは短縮されつつあります。多くの専門家は、2040年代後半から2050年代に最初の実証炉が稼働し、2060年代以降に商用炉が登場すると予測しています。
核融合発電は安全ですか?
はい、核融合発電は非常に安全なエネルギー源です。原理的に連鎖反応が起きず、燃料供給が停止すれば反応はすぐに停止します。メルトダウンのような暴走事故のリスクはありません。また、生成される放射性物質も核分裂炉に比べてはるかに低レベルで、短期間で放射能レベルが低下します。
核融合発電にはどのような課題がありますか?
主な課題は、数億度の超高温プラズマを安定して長時間閉じ込める技術、過酷な中性子照射に耐えうる炉壁材料の開発、燃料となる三重水素を効率的に自己生成させる技術、そして高い建設コストを低減し、経済的に競争力のある電力を供給することです。