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デジタル時代におけるプライバシーのパラドックス

デジタル時代におけるプライバシーのパラドックス
⏱ 25 min

最新の報告によると、世界中で毎日生成されるデータ量は3,287億ギガバイトを超え、この膨大な情報の流れは、見えない戦争の最前線を形成しています。この「見えざる戦争」の中心にあるのは、個人データのプライバシーと、国家が自国のデジタル領域をどれだけ制御できるかというデジタル主権という二つの概念です。超連結された現代社会において、これらの問題はもはや遠い国の話ではなく、私たちの日常生活、経済、そして国際政治の根幹を揺るがす喫緊の課題となっています。

デジタル時代におけるプライバシーのパラドックス

私たちは、スマートフォンを手に取り、ソーシャルメディアをスクロールし、オンラインショッピングを楽しむたびに、意識的または無意識的に自身のデータを共有しています。このデータは、私たちの行動、好み、人間関係、さらには健康状態や政治的志向性までをも明らかにする可能性を秘めています。デジタル経済の根幹をなすこのデータの収集と利用は、かつてない利便性をもたらす一方で、個人のプライバシーに対する深刻な脅威を生み出しています。

データの価値と収集の広がり

データは21世紀の石油と称され、その価値は計り知れません。企業は、ターゲティング広告、製品開発、サービス改善のためにデータを収集し、国家は国家安全保障や公共サービスの提供にデータを活用します。しかし、この広範なデータ収集は、私たち自身が気づかないうちに、私たちのデジタルフットプリントを形成し、私たちのアイデンティティを再構築しています。

例えば、あなたがオンラインで「猫のフード」を検索したとします。数時間後、あなたのソーシャルメディアフィードには、猫のフードや関連商品の広告が溢れているかもしれません。これは、あなたの検索履歴がデータとして収集され、広告業者に販売または共有された結果です。このようなパーソナライズされた体験は便利に感じるかもしれませんが、同時にあなたの行動が常に監視され、利用されているという事実を示しています。

個人情報がどのように利用されているか

個人データの利用方法は多岐にわたります。最も一般的なのは、顧客体験のパーソナライズとターゲティング広告です。しかし、それだけではありません。金融機関は信用スコアリングに、保険会社はリスク評価に、医療機関は研究や診断にデータを活用しています。また、政治キャンペーンでは有権者の行動予測やターゲティングに利用され、時には世論操作にも繋がることが指摘されています。

このデータの利用は、企業や政府にとって強力なツールとなりますが、その裏側で、個人の自律性や選択の自由が侵害されるリスクもはらんでいます。私たちは、データがどのように収集され、誰によって、どのような目的で利用されているのかを完全に把握することは非常に困難です。

データ漏洩のリスクと影響

膨大な量のデータが集中すればするほど、そのデータが不正アクセスやサイバー攻撃の標的となるリスクも高まります。データ漏洩は、企業に経済的損失とブランドイメージの毀損をもたらすだけでなく、個人にとってはID盗難、金融詐欺、プライバシー侵害といった深刻な被害をもたらします。

過去数年間、主要企業や政府機関からの大規模なデータ漏洩事件が相次いで報告されており、その影響は数百万人の個人に及んでいます。一度漏洩したデータは、インターネット上で半永久的に拡散され、個人のデジタル履歴から完全に削除することは極めて困難です。

3,287億GB
1日あたりの世界データ生成量
85%
過去5年間でデータ漏洩を経験した企業割合
350万件
2023年に報告された個人データ漏洩事件数
4.45億円
データ漏洩1件あたりの平均コスト(日本円)
「デジタル時代において、プライバシーは単なる個人の権利を超え、民主主義の基盤をなすものです。私たちのデータが誰の手に渡り、どのように使われるかを知ることは、現代市民の必須の知識であり、それを守るための戦いは、見えないが故に最も重要な戦いの一つです。」
— 山本 恵子, デジタル倫理研究者

データ主権とは何か?国家の視点とグローバルな動き

データプライバシーが個人の権利に焦点を当てる一方、デジタル主権は国家が自国のデジタルインフラ、データ、ネットワークをどの程度制御できるかという、より大きな地政学的概念です。グローバルなデータフローが加速する中で、各国政府は自国のデータが外国政府や企業によってアクセス・利用されることに対する懸念を深めています。

データローカライゼーションの動き

データローカライゼーションとは、特定の種類のデータが国内のサーバーに保存されることを義務付ける政策を指します。これは、国家安全保障、法執行機関によるアクセス、そして自国民のプライバシー保護を目的として導入されることが多いです。

例えば、ロシアは2015年から、国民の個人データを国内サーバーに保存することを義務付けています。インドや中国も同様の規制を設けており、これは自国のデジタル領域に対する主権を強化しようとする動きの一環です。しかし、このような政策は、グローバル企業にとっては追加のコストと運用上の複雑さをもたらし、国際的なデータフローを阻害する可能性も指摘されています。

国家安全保障と経済的利益

国家は、自国の国民データが外国の諜報機関によって傍受されたり、外国政府が自国のインフラにサイバー攻撃を仕掛けたりするリスクを懸念しています。そのため、データ主権は、サイバーセキュリティ戦略や国家安全保障政策と密接に結びついています。また、データが「新しい石油」であるならば、そのデータの保存場所とアクセス権限は、経済的な利益と競争力を左右する重要な要素となります。

クラウドサービスが世界的に普及する中で、どの国の法域でデータが管理されるかは、国際的な緊張関係にも影響を与えています。例えば、アメリカのクラウドプロバイダーが保有するデータは、アメリカの法執行機関によるアクセス対象となる可能性があり、これがEUやアジア諸国の企業にとって懸念材料となることがあります。

中国、ロシア、EUなどの事例

各国・地域は、デジタル主権に関して異なるアプローチを取っています。

  • 中国: 「サイバーセキュリティ法」に基づき、重要な情報インフラの運営者は、中国国内で収集・生成された個人情報および重要データを中国国内に保存することを義務付けています。これは、国家のデジタル統制を強化し、データの国外流出を防ぐことを強く意図しています。
  • ロシア: 個人データ保護法により、ロシア国民の個人データの処理と保存はロシア国内のサーバーで行われる必要があります。この法律は、LinkedInなどのサービスがロシア国内にサーバーを設置しなかったためにアクセスが制限される事例を生んでいます。
  • EU: GDPRは、データがEU域外に転送される際の厳格な条件を設けています。これはデータローカライゼーションを直接義務付けるものではありませんが、域外へのデータ転送がEUのプライバシー保護基準を満たしていることを保証することを求めており、実質的にデータ主権を強化する役割を果たしています。
国・地域 主な規制・政策 主要なデータローカライゼーション要件 影響を受けるデータ
欧州連合 (EU) 一般データ保護規則 (GDPR) 域外転送の厳格な条件(SCCs、拘束的企業準則など) EU市民の個人データ
中国 サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法 重要情報インフラ運営者による国内保存義務 個人情報、重要データ、国家秘密
ロシア 個人データ保護法 ロシア国民の個人データの国内保存義務 ロシア国民の個人データ
インド 個人情報保護法案 (審議中) 特定の「重要個人データ」の国内保存義務 インド国民の個人データ、重要データ
ベトナム サイバーセキュリティ法 国内にデータ保存、現地オフィス設置の義務付け ベトナム国民の個人データ、重要データ

参照: Reuters: Vietnam issues decree on cloud computing and cybersecurity

個人データ保護の現状:主要規制と課題

世界中でデータ保護規制が急速に整備されていますが、その内容は国や地域によって大きく異なります。これらの規制は、個人のデータ権利を強化し、企業に透明性と責任を求めるものですが、その運用には依然として多くの課題が残されています。

GDPR、CCPA、APPIなどの主要規制

  • 一般データ保護規則 (GDPR - EU): 2018年に施行されたGDPRは、世界で最も包括的なデータ保護法の一つとされ、その域外適用性により、EU域外の企業にも大きな影響を与えました。個人の同意の厳格化、データ主体権(アクセス権、消去権など)の強化、データ侵害通知義務、そして高額な制裁金が特徴です。
  • カリフォルニア州消費者プライバシー法 (CCPA - 米国): 2020年に施行されたCCPAは、GDPRに次ぐ重要なプライバシー規制と見なされています。カリフォルニア州住民に対し、企業が収集する個人情報の開示要求権、削除要求権、第三者への販売拒否権などを付与しています。
  • 個人情報保護法 (APPI - 日本): 日本の個人情報保護法は、2020年改正でGDPRと整合性を図る形で強化され、個人データの利用停止・消去請求権の拡充や、漏洩時の個人情報保護委員会への報告義務などが盛り込まれました。

これらの規制は、企業に対し、データの取り扱い方法を見直し、プライバシーを設計段階から考慮する「プライバシー・バイ・デザイン」の原則を取り入れることを促しています。

同意と透明性の問題

多くのデータ保護規制は、個人データの処理に際して「明確な同意」を求めていますが、現実には、ユーザーは複雑で長大なプライバシーポリシーを読まずに同意ボタンをクリックしてしまうことがほとんどです。これにより、データ収集の透明性が損なわれ、個人が自身のデータがどのように利用されているかを理解できないという問題が生じています。

また、「同意の疲弊」と呼ばれる現象も指摘されています。ウェブサイトを訪問するたびにクッキー同意バナーが表示され、ユーザーは煩わしさから無条件に同意してしまう傾向にあります。真に意味のある同意を得るためには、よりユーザーフレンドリーで分かりやすい情報提供の仕組みが求められています。

執行と罰則の実態

データ保護規制は、違反に対して高額な罰金を課すことで知られています。特にGDPRは、違反企業に対し、全世界売上高の最大4%または2,000万ユーロのいずれか高い方を上限とする罰金を科すことができます。これにより、多くのグローバル企業がコンプライアンス体制の強化を余儀なくされました。

しかし、罰則の執行には課題も残されています。各国の規制当局のリソース不足や、グローバル企業に対する管轄権の問題、そして違反の複雑性などが、効果的な執行を妨げる要因となることがあります。また、AIや機械学習の進化により、新たなデータ利用方法が生まれるたびに、既存の規制が追いつかないという「規制の遅れ」も常に存在します。

データ漏洩の主な原因 (2023年)
フィッシング/ソーシャルエンジニアリング38%
設定ミス/ヒューマンエラー25%
ランサムウェア/マルウェア18%
不正アクセス/内部犯行10%
その他9%

グローバル企業のデータ戦略と倫理的ジレンマ

現代のグローバル企業、特にテックジャイアントは、膨大なデータを収集・分析することで、市場を支配し、新たなビジネスモデルを創造しています。しかし、その強力なデータ戦略は、しばしば倫理的なジレンマや社会的な批判に直面します。

データエコノミーの主役としてのテックジャイアント

Google、Meta (Facebook)、Amazon、Appleといった企業は、世界中のユーザーから収集したデータを活用して、検索エンジン、ソーシャルメディア、Eコマース、クラウドサービスといった多様なサービスを提供しています。これらの企業は、データの収集、処理、分析において比類ない能力を持ち、そのデータが彼らの競争優位性の源泉となっています。

彼らは、アルゴリズムと機械学習を駆使してユーザーの行動を予測し、パーソナライズされた体験を提供することで、サービスの利用時間を最大化し、広告収入や製品販売へと繋げています。この「監視資本主義」とも呼ばれるビジネスモデルは、私たちのデジタルライフを豊かにする一方で、個人の選択肢を無意識のうちに制限する可能性も秘めています。

ビジネスモデルとプライバシーの衝突

広告を主な収益源とする企業にとって、ユーザーデータの収集はビジネスモデルの生命線です。しかし、これが個人のプライバシー権と衝突するケースが頻繁に発生しています。例えば、Facebookのケンブリッジ・アナリティカ事件では、数千万人のユーザーデータが政治コンサルティング企業によって不正に利用され、プライバシー侵害の深刻さが浮き彫りになりました。

近年では、Appleがプライバシー保護を強化する姿勢を見せ、アプリ開発者に対しユーザー追跡の同意を求める機能を導入しました。これは、広告に依存する他のテック企業(特にMeta)のビジネスモデルに大きな影響を与え、プライバシーと収益性の間の緊張を明確に示しています。

AIとビッグデータ利用の倫理的側面

AIとビッグデータの組み合わせは、医療診断、自動運転、犯罪予測など、社会に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、その利用には深刻な倫理的課題が伴います。

  • 差別とバイアス: AIモデルが学習するデータに人種的、性別的、社会経済的なバイアスが含まれている場合、AIの判断も差別的になる可能性があります。例えば、採用システムが特定の層を不利に扱ったり、顔認識システムが特定の人種を誤認識したりする問題が報告されています。
  • 透明性と説明責任: AIの意思決定プロセスはしばしば「ブラックボックス」と化し、なぜそのような結論に至ったのかを人間が理解できないことがあります。これにより、AIによる誤った判断や不公平な扱いが発生した場合に、誰が責任を負うのかという問題が生じます。
  • 監視とコントロール: AIとビッグデータは、個人の行動を詳細に監視し、予測し、時には操作する強力なツールとなり得ます。中国の社会信用システムのように、国家がAIを用いて市民の行動を評価・管理するシステムは、個人の自由とプライバシーに対する極めて大きな脅威となります。
「テックジャイアントは、データの無限の可能性を追求する一方で、その倫理的責任を真剣に問い直す必要があります。利益追求の論理と個人の尊厳、社会の公正さとのバランスをどう取るか。これは彼らだけでなく、私たち全員が取り組むべき喫緊の課題です。」
— 渡辺 健一, 企業倫理コンサルタント

参照: Wikipedia: ケンブリッジ・アナリティカ-フェイスブック・データスキャンダル

サイバーセキュリティの脅威と地政学的リスクの増大

データプライバシーとデジタル主権の議論は、サイバーセキュリティの脅威と切り離して考えることはできません。国家間の緊張が高まるにつれて、サイバー空間は新たな戦場となり、データは最も重要な兵器の一つとして扱われています。

国家主導型サイバー攻撃の台頭

近年、国家が支援するサイバー攻撃グループによる活動が活発化しています。これらのグループは、他国の政府機関、重要インフラ、企業、研究機関を標的とし、情報窃取、破壊工作、プロパガンダ拡散などを目的としています。標的型攻撃、サプライチェーン攻撃、ランサムウェア攻撃など、その手口は高度化・巧妙化の一途をたどっています。

例えば、ロシアはウクライナ侵攻に関連して、ウクライナの政府機関やエネルギーインフラに対する大規模なサイバー攻撃を仕掛けています。また、中国は知的財産権の窃取を目的としたサイバー攻撃を長年にわたって行っていると非難されています。これらの攻撃は、単なるデータ漏洩を超え、国家の安定性や経済に深刻な影響を与える可能性があります。

データセンターの物理的・論理的セキュリティ

データセンターは、現代社会のデジタルインフラの心臓部であり、膨大なデータが物理的に集約されています。そのため、データセンターに対する攻撃は、広範なデジタルサービスの停止や大規模なデータ漏洩に直結します。

セキュリティ対策は、物理的な侵入防止(厳重な警備、生体認証、監視カメラなど)と、論理的な防御(ファイアウォール、侵入検知システム、暗号化、アクセス制御など)の両面から徹底される必要があります。しかし、自然災害、停電、さらには内部犯行といったリスクも常に存在し、完璧なセキュリティは存在しないのが現実です。

サプライチェーン攻撃の脆弱性

サプライチェーン攻撃は、標的となる組織が利用しているソフトウェアやハードウェアのサプライヤーを攻撃することで、その脆弱性を悪用して侵入する手法です。一つのサプライヤーが侵害されると、その製品やサービスを利用している多数の企業や政府機関が連鎖的に被害を受ける可能性があります。

代表的な事例としては、2020年のSolarWinds事件が挙げられます。ロシア系のハッカーグループがSolarWinds社のソフトウェアアップデートに悪意あるコードを仕込み、これを利用していた米国政府機関や大手企業に侵入しました。この事件は、サプライチェーン全体のセキュリティリスクを再認識させ、企業や政府が自身のシステムだけでなく、サプライヤーのセキュリティ対策にも目を光らせる必要性を浮き彫りにしました。

未来への展望:新たな技術と国際協力の必要性

データプライバシーとデジタル主権を巡る「見えざる戦争」は、今後も激化していくと予想されます。この複雑な課題に対処するためには、技術革新と国際的な枠組みの強化が不可欠です。

プライバシー強化技術(PETs)の可能性

プライバシー強化技術(PETs: Privacy-Enhancing Technologies)は、個人データを保護しながらその有用性を維持するための技術です。これには以下のようなものがあります。

  • 準同型暗号(Homomorphic Encryption): データが暗号化された状態のままで計算処理を可能にする技術。これにより、クラウド上でデータを処理する際にも、元のデータが露出するリスクを低減できます。
  • 差分プライバシー(Differential Privacy): データセットにノイズを加え、個々のデータポイントが特定できないようにしながら、統計的な傾向を分析できる技術。GoogleやAppleが利用しています。
  • 安全な多者計算(Secure Multi-Party Computation - SMPC): 複数の当事者が互いにデータを公開することなく、共同で計算を行うことを可能にする技術。競合する企業間でのデータ共有や、機密性の高い共同研究に応用が期待されます。

これらの技術は、データプライバシーとデータ活用の間のトレードオフを解消し、新たなプライバシー保護型ビジネスモデルの創出に貢献する可能性があります。

分散型台帳技術(DLT)とデータ主権

ブロックチェーンに代表される分散型台帳技術(DLT)は、データの管理方法に革命をもたらす可能性を秘めています。DLTは、中央集権的なデータベースではなく、分散されたネットワーク上のノードでデータを共有・検証するため、単一障害点のリスクを低減し、データの改ざんを困難にします。

個人のデータ主権という観点では、「自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity - SSI)」という概念が注目されています。これは、個人が自身のデジタルIDとデータを完全に制御し、誰とどの情報を共有するかを自身で決定できる仕組みです。これにより、個人は企業や政府に依存することなく、自身のデジタル資産を管理できるようになる可能性があります。

国際協力と標準化の必要性

データフローは国境を越えるため、データプライバシーとデジタル主権の問題は一国だけでは解決できません。国際的な協力と、データ保護に関する共通の標準化が不可欠です。

G7やG20といった国際会議では、データの自由な流通と信頼性の確保(Data Free Flow with Trust - DFFT)という概念が提唱されています。これは、信頼できる形でデータを国境を越えて流通させることで、経済成長を促進しつつ、個人のプライバシーとセキュリティを保護しようとするものです。しかし、各国の異なる法的・政治的背景を考慮すると、共通の枠組みを構築するには多大な努力と時間がかかります。

また、サイバー攻撃に対する国際的な連携も重要です。国家主導型サイバー攻撃に対抗するためには、情報共有、共同での調査、そして制裁などの協調行動が必要です。国連やその他の国際機関が、サイバー空間における規範やルール作りに積極的に関与することが求められます。

市民と企業が取るべき行動:デジタル世界での生存戦略

データプライバシーとデジタル主権の複雑な問題は、政府や大企業だけのものではありません。私たち一人ひとりの市民と、あらゆる規模の企業が、この見えない戦争において果たすべき役割と、取るべき行動があります。

個人ユーザー向けの自己防衛策

個人のデジタルフットプリントを管理し、プライバシーを保護するためには、意識的な行動が不可欠です。

  • パスワードの強化と二段階認証: 複雑でユニークなパスワードを使用し、可能な限り二段階認証(2FA)を設定することで、不正アクセスからの保護を強化します。
  • プライバシー設定の確認: ソーシャルメディアや各種オンラインサービスのプライバシー設定を定期的に確認し、自身の情報がどこまで公開されているかを把握・制御します。
  • 不必要なデータ共有の回避: アプリケーションの権限設定を見直し、必要のない個人情報へのアクセスを許可しないようにします。無料サービスであっても、その対価として個人データを提供していることを認識することが重要です。
  • VPNの利用: 公衆Wi-Fiなど安全でないネットワークを使用する際には、VPN(仮想プライベートネットワーク)を利用して通信を暗号化し、傍受のリスクを低減します。
  • 情報源の吟味とデジタルリテラシーの向上: フェイクニュースやフィッシング詐欺に騙されないよう、情報の信頼性を常に疑い、デジタルリテラシーを高める努力を怠りません。

企業向けのコンプライアンス戦略

企業にとって、データ保護規制の遵守はもはや選択肢ではなく、事業継続のための必須要件です。違反は、高額な罰金だけでなく、顧客からの信頼喪失、ブランド価値の毀損に繋がります。

  • データマッピングと評価: 企業がどのような個人データをどこで収集し、保存し、処理しているかを把握するためのデータマッピングを実施し、リスク評価を行います。
  • プライバシー・バイ・デザインの導入: 新しい製品やサービスを開発する初期段階から、プライバシー保護の原則を組み込みます。
  • 従業員教育の徹底: 全従業員に対し、データ保護の重要性、規制の要件、適切なデータ取り扱いに関する定期的なトレーニングを実施します。
  • インシデント対応計画の策定: データ漏洩やサイバー攻撃が発生した場合に備え、迅速かつ効果的に対応するための明確な計画を策定し、定期的に訓練します。
  • セキュリティ対策の強化: 最新のサイバーセキュリティ技術を導入し、システムの脆弱性を定期的に評価・修正します。

教育と意識向上

見えない戦争に勝利するためには、社会全体の意識向上が不可欠です。学校教育においてデジタルリテラシーとプライバシー教育を強化し、市民が自身のデジタル権利を理解し、行使できるような環境を整備する必要があります。また、企業や政府も、データ利用の透明性を高め、市民との信頼関係を構築するための努力を続けるべきです。

データは私たちの生活を豊かにする無限の可能性を秘めていますが、その力は両刃の剣です。私たちは、技術の進歩を享受しつつも、その影に潜むリスクを認識し、積極的な行動を通じて、より安全でプライバシーが尊重されるデジタル社会を築き上げていく責任があります。

参照: 内閣サイバーセキュリティセンター: 国民のための情報セキュリティサイト

データプライバシーとデジタル主権の違いは何ですか?

データプライバシーは、個人の情報がどのように収集、保存、利用、共有されるかという個人の権利と管理に焦点を当てています。つまり、個人が自身のデータに対して持つ権利のことです。

一方、デジタル主権は、国家が自国のデジタルインフラ、データ、ネットワーク、そしてオンライン活動をどれだけ制御できるかという国家レベルの概念です。これには、データの保管場所、データへのアクセス権、そしてサイバーセキュリティなどが含まれます。

個人として、自分のデータを保護するために何ができますか?

個人としてできることは多くあります。

  • 強力でユニークなパスワードを使用し、二段階認証を設定する。
  • 利用しているサービスのプライバシー設定を定期的に確認・調整する。
  • 不必要なアプリの権限を許可しない。
  • 公衆Wi-Fi利用時にはVPNを使用する。
  • フィッシング詐欺や不審なリンクに注意し、デジタルリテラシーを高める。
  • 個人情報を提供する前に、そのサービスや企業のプライバシーポリシーを確認する。
企業がデータプライバシー規制を遵守しない場合、どのような結果になりますか?

企業がデータプライバシー規制を遵守しない場合、いくつかの深刻な結果が生じます。

  • 高額な罰金: GDPRなどの規制では、全世界売上高の最大4%にも及ぶ高額な罰金が課される可能性があります。
  • 法的措置: 規制当局からの調査、訴訟、そしてデータ主体からの集団訴訟に直面する可能性があります。
  • ブランドイメージの毀損: データ漏洩やプライバシー侵害は、企業の信頼性とブランドイメージを大きく損ない、顧客離れを引き起こします。
  • 事業運営への影響: サービス停止命令や、特定の国・地域での事業展開が制限される可能性があります。
  • 競争力の低下: プライバシーへの配慮が不足していると見なされる企業は、顧客やパートナーから敬遠され、市場競争力が低下する可能性があります。
プライバシー強化技術(PETs)とは具体的に何ですか?

プライバシー強化技術(PETs)は、個人データを保護しながらそのデータから価値を引き出すことを可能にする技術の総称です。

  • 準同型暗号: データが暗号化された状態のままで計算処理が行えるため、クラウドサービス利用時でもデータの内容が漏洩する心配がありません。
  • 差分プライバシー: データセットに意図的に「ノイズ」を加えて統計的な匿名性を高めることで、個々のユーザーが特定されないようにしつつ、全体の傾向を分析できるようにします。
  • 安全な多者計算 (SMPC): 複数の参加者が各自の秘密データを公開することなく、共同で計算を行う技術で、機密性の高い共同分析などに利用されます。
  • ゼロ知識証明: ある情報を持っていることを、その情報自体を明かすことなく証明できる技術で、認証や身元確認のプロセスでプライバシーを保護するのに役立ちます。

これらの技術は、データ活用とプライバシー保護の両立を目指す上で極めて重要な役割を果たします。